なにかと話題になっている本を読んでみた。
「求刑死刑 タイ・重罪犯専用刑務所から生還した男」竹澤恒男
タイトルからして刺激的。
あのバンクワン刑務所について、日本人受刑者本人がきちんと日本語で書いているのだ。
これは興味津々。
日本帰国のタイミングで、さっそく取り寄せ、一気に通読。
はい、けっこうおもしろかったです。
広告
目次
簡単な内容紹介
タイの空港の保安検査場にてヤーバー所持が見つかり逮捕される。
裁判の結果、求刑は死刑。
送られた先は、タイで悪名をほしいままにするバンクワン刑務所だった。
最悪最強といわれるバンクワン刑務所の実態とは?
そして、死刑を逃れて、無事に出所することはできるのか?
衝撃の獄中記。
感想
こういったタイの刑務所獄中記は、ファランが書いたものが多数出版されている。
バンコクやパタヤにたくさんあるAsia Booksといった洋書本屋へ行けば簡単に見つかるだろう。
店頭で手に入りやすいものに関しては、わたしはほとんどすべて読んでいる。
もちろん英語(一部翻訳も出ている。のちほど紹介)。
日本人受刑者自らが日本語で書いて、きちんとした書籍の形で公刊されるのはこれが初めてではないだろうか。
それだけにとても貴重な証言だ。
著者の生い立ちや悲劇的な人生はともかく、彼はれっきとした犯罪者。
何度も罪を重ねて、日本でも複数回刑務所に入っている。
そして、薬物の密輸現行犯でつかまり、タイの刑務所へ収監された。
それも最低最悪と呼ばれるバンクワン刑務所だ。ここでは懲役30年以上の重罪犯ばかりを専用とする刑務所。
バンクワン刑務所では、いきなり足かせをはめられる。
バンクワン刑務所獄中記としてはもっとも有名な「The Damage Done」という本の表紙の写真がわかりやすい。
この足かせにつながれた人物は著者本人とのことだ。
「求刑死刑」の著者も描写しているが、鎖がじゃらじゃらとうるさいので、歩くときは紐で釣り上げる。さらに知恵として、ズボンに紐をつなげるといいそうだ。
あとは、刑務所内での、非日常的な日常風景が描かれる。
バラエティ豊かな受刑者たち、看守たち、商売、薬物販売、ケンカなどなど。
レディボーイの受刑者たちが金儲けのため、他の囚人にケツをレンタルするくだりはやっぱりどこでもタイなんだなあとニンマリさせられる。
基本的には、過去に読んできたバンコク刑務所本で知っていることが多くて、わたしにとっては衝撃の内容とはいかないけれど、やっぱり興味深いことばかり。初めてこういった本を読む人にとっては、かなり刺激的だと思う。
ただ、「The Damage Done」に比べると、かなりマイルドな内容。
もちろん、時代が違う。「求刑死刑」はここ10年ほどの出来事。それに対して、「The Damage Done」は1970年代後半から80年代にかけてのこと。
時代背景が異なるんで、バンクワン刑務所の実態も変わってきているだろう。
それでも、衝撃の刑務所であることには変わりない。
日本では考えられないよなあ、バンクワン刑務所は。
読んでいて一番驚いたのは、バンクワン刑務所での死刑執行が再開されていたこと。
それを他の囚人に向けてテレビ中継するのもすごい。
最新のバンクワン刑務所内の実情が知れて、大収穫。
それになにより、日本語できちんと読めるのはありがたい。
英語の本をそのまま読むのは時間がかかるし、どうしても理解できない単語や文章に引っかかってしまう。
日本人が日本語でバンクワン刑務所について知りたいと思うなら、現状、この本がベストかつオンリーワン。
まずは、一読してみることをおすすめします。
英語で書かれた類書に比べると重厚感は見劣りするけれど、そのぶんさくさく読めますね。
タイへ向かう飛行機の中で読めば、ぞくぞく感が増すこと必至。
間違っても、変なものを輸入輸出しようとは思わなくなるはずだ。
薬物はダメ、絶対。
タイやパタヤが薬物みたいな中毒性があるんだから、それで満足しておきましょう。
バンクワン刑務所に関する書籍
わたしがこれまで集めてきたタイの刑務所ものがこちら。
バンクワン刑務所だけでなく、他の刑務所も入っています。
他にもあるけれど、とりあえず数点、紹介していきます。
The Damage Done
ぶっちぎりでおもしろいのがこれ。
バンクワン刑務所での地獄の12年間の様子がねっとりと描かれている。
でも、内容はけっこう怪しい。刑務所内は、基本、ゴ◯ブリとネズミだらけです。
内容の是非はともかく、一度は読むべし。最近になって、Kindle版も発売になっている。ロングセラーだ。
関連記事:バンクワン刑務所へようこそ THE DAMAGE DONE
Welcome to Hell
無実の罪(著者いわく)で、バンコク刑務所に収監されることになった著者の獄中記。
鉄格子越しの絶望的な表情がたまらない。
バンクワンではなくて、Lard Yao Prison(ラジャオ、ラートヤオ刑務所。クロンプレム刑務所と呼ぶことが多い)やチョンブリ刑務所での話だ。
どうやら、クロンプレム刑務所のことを、ファランたちはBangkok Hiltonと皮肉まじりに呼んでいるようだ。ファランの書く獄中記には、バンコクヒルトンという呼称がよく出てくる。(バンクワン刑務所も合わせて、バンコクヒルトンと呼ぶこともある。)
でも、刑務所内はけっこう自由で、ファランはファランで集まって小屋の中で普段は過ごしていたり、筋トレに精を出したりと、なかなか楽しそう。
わりと抑えめの筆致で、The Damege Doneよりは刺激が低めだけど、いい本。
この本は翻訳が出ている。
Nightmare in Bangkok
ドラッグ密輸の罪で逮捕。
約5年ほど収監された。
こちらも、バンクワンではなくて、クロンプレム刑務所の様子が描かれている。
ファラン専用の小屋や中国人コックのいるキッチンなど、刑務所内の写真が掲載されており、興味深い。
ただ、本の内容は今ひとつか。
Bangkok Hard Time
著者は、薬物密輸で逮捕され、バンコクヒルトン(クロンプレム刑務所)へと収監された。
ベトナム戦争当時から話は始める。
1967年に、アメリカ軍人の父に連れられバンコクに住み始めた著者。ティーンネイジャーにとってバンコクは誘惑の多い刺激的な街だった。
当時のバンコクの様子や、また漁村だった頃のパタヤも登場する貴重な証言の数々。
獄中記として読むよりも、60年代から80年代にかけてのタイやバンコクの様子がファラン目線で描かれているのがおもしろい。
「The Damage Done」ともども、タイのアンダーグランド面に興味がある人は必読。Kindle版あり。
他にも、ファランの書いたタイ刑務所ものはあるが、とりあえずこんなところで。
The Big Tiger Prison:The Big Truth from Bangkwang Confinement Area
ここまで取り上げてきたのは、外国人受刑者たちによるもの。
本の内容には、誤解や誇張による表現が含まれていてもおかしくない。
それらの本を読んだ欧米から非難の声が多く上がる。
タイの刑務所はなんて極悪非道のひどい世界なんだ、許せない、というわけだ。
そんな声に対抗するかのように出版されたのが、この本。
バンクワン刑務所で実際に看守として働く人物がバンクワン刑務所の内情を書いている。
刑務所内部の人間だけあって、囚人たちが撮影しえないような、処刑現場や刑務所内の写真が多数収録されていて、かなり貴重な文献。
「求刑死刑」内でもちらっと描かれていたが、ファラン受刑者たちは文句が多い。何かというとすぐに本国の大使館に連絡して、クレームをつける。
看守たちも、そういったファランに対処するのに苦労していることが、この本を読むとよくわかる。
また、先に取り上げた「The Damage Done」の内容が胡散臭いことも著者は冷静に指摘している。
ファランの元受刑者たちの一方的な記述を信用するだけでなく、タイ人看守からの反論本もきっちり読んでおきましょう。
Amazonでは売っていないようだが、タイ国内の洋書書店では、今でも見かける。見つけたら即ゲットで。
バンクワン刑務所で死刑執行人をつとめていた人物の著作も合わせてどうぞ。
まとめ
はたして、バンクワン刑務所の実態はどうなのか。
結局のところ、外部から十全に知りうることはできない。
まずは、日本語で書かれた「求刑死刑」から読み始めるのがいいでしょう。特に誇張を感じるような内容や表現はなかった。逆に言えば文章がこなれていない。が、そのぶん、淡々としてリアルに近いのではないかと。
興味を持ったら、英語で書かれた文献を紐解いていくのがベターです。
広告