おもしろい本を読んだ。
タイトルは『サバイバーズクラブ』、著者はベン・シャーウッド。
さまざまな極限状態から生き延びた人たちの話をまとめたもの。
世界中からエピソードを集め、実際に著者がインタビューしている。
読み応えたっぷり。
その中でも、海外旅行好きには気になるであろう飛行機事故に取り上げてみよう。
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航空機事故からサバイバルせよ
海外旅行には欠かせないフライト。わたしは年に何度も国際線に搭乗する。もうこれまで数え切れないほど飛行機に乗っている。
離陸時、窓の外の景色が変わっていく様が好きだ。Gがかかり、新しい世界へ飛び立っていく期待と高揚感に包まれる。
と、同時に、地表がぐんぐんと遠ざかるにつれ、ふと恐怖に襲われる。ここで墜落したら確実に終わりだなと。
雲の上まで到達し、安定飛行に移ると、どこか現実感覚がなくなり、恐怖感はまったくなくなるのだが。
多くの人は、飛行機事故が起きたら確実に死ぬと思っている。わたしもそう思い込んでいた。
が、『サバイバーズクラブ』によると、それは間違いだ。
実際のところ、航空機事故の生存率は、95.7%もあるのだ。
航空機事故の大半は離着陸時に起きている。
スピードはそれなりに出ているが、怖いのは地面のぶつかる衝撃よりもその後の火災。機体が炎上することによって死に至るケースが多い。
一度機体に火がつくと、あとは火炎地獄が待っている。客室の温度は1000度を超える。そしてついには爆発を起こす。
その時間は90秒。
この90秒の間に脱出しなくてはならない。
まさに90秒の行動が生死を決すると、『サバイバーズクラブ』の著者は力説する。
また、「プラス3/マイナス8」という航空業界用語がある。
プラス3とは離陸時の3分間、マイナス8とは着陸時の8分間のこと。航空機事故の8割はこの11分間に起こる。
11分間は最大の注意が必要。
飛行機に搭乗したとたん、靴を脱いで油断している人はいないだろうか。すぐに寝てしまう人はいないだろうか。
安全のしおりを読むこともなく、客室乗務員による安全指導を無視してないか。
着陸時も熟睡したまま、着陸の衝撃で目を覚ますことはないだろうか。
わたしもついついやってしまう。
安全指導のたぐいは見飽きたし、着陸態勢に入ると電子機器が使えないので寝てしまうことが多い。
こういった態度が生存確率を悪くさせる。
慣れによる慢心こそが最も危険だ。
不時着の衝撃で電気が消え、火災による煙が機内に充満する。機内にはものが散乱している。
こういった状況で一刻も早く脱出しなくてはいけない。
靴を履いていないと歩くこともままならない。非常口の場所もわからない。これでは逃げようがないではないか。
が、しっかりと準備をしておき、頭の中で非常時のシミュレーションをしておくと、脱出のチャンスは増えるはずだ。
大事なのは心構え。
・非常口の場所をしっかり覚えておけ
・靴は履いておけ
・手荷物のことは忘れろ
そして、サバイバルに一番向いている人は、若くて痩せている男性。体力と、狭い非常口からも抜け出せる体の細さが必要。
デブは死にやすい。
なお、非常口から5列目までの席がもっとも助かる確率が高いそうだ。
非常口席(Exit Row Seat)は貧者のファーストクラスとして人気が高いが、ここは緊急時にもっとも重要なポジション。事故時にパニックとなると、他の乗客の脱出を阻害することになる。英語が話せる必要もある。
エグジットシート希望の人は、他の乗客よりもさらに危機意識を高めておく必要がありそうだ。
飛行機事故で死ぬ確率
いや、そもそも飛行機事故って多いのか。
航空機事故の死亡確率はどのくらいなのか。
本書によると、アメリカ国内線に搭乗した際の死亡確率は6千万分の1。
ほとんど無視していい確率。ジャンボ宝くじの一等が当たるよりも低い。
さらに最新のデータがある。
昨年2017年の大型旅客機の墜落事故は、なんとゼロ。死者もゼロ。
もはや、大型旅客機は世界で最も安全な乗り物の一つと言える。これは間違いない。
自宅の階段や風呂場で転んで死亡する人は日本だけで年間数千人もいる。
雲の上を音速に近いスピードで航行する飛行機よりも、自分の家の中を歩くほうがよっぽど危険。
少し前の厚生労働省によるデータだが、家庭内における不慮の事故で年間12,000人が死亡している。そのうち転倒・転落での死者は2,676人。
ソース:http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/suii09/deth18.html
海外のホテルの浴室は、床がタイル張りのところが多く、実にすべりやすい。
わたしも何度か滑って転んだ経験がある。一歩間違えば、頭を強打して死んでいてもおかしくなかった。
飛行機が落ちる心配よりも足元に気をつけたほうがいい。
それでも航空機事故は起きる。
その時にどう考え、どう行動するかだ。
とりあえず、プラス3/マイナス8の11分間だけは、どんなに疲れていても、気を張り、注意を怠らず、有事の際の行動に備えておきたい。
せめて靴だけはきちんと履いて、非常口の場所だけは頭に焼き付けておくべし。
生き残るための教訓
この『サバイバーズクラブ』には、飛行機事故以外にも極限状態から生き延びた人たちのエピソードがてんこ盛り。
死んでも当然の状況から、彼らはどうやってサバイバルしたのか。
世界中でインタビューをした著者がサバイバルに必要な教訓を5つ導き出す。
最後の5つ目の教訓が胸を打つ。
乗っていた飛行機がアンデス山脈の氷河に墜落し、人肉を食ってまで生き延びたサバイバーの発言で締めくくる。
「自分がこの世に存在することを味わおう。一瞬一瞬を生きていこう。ひとつの息も無駄にしないで。」
テクニックでも知識でもない。生きようという強い意志こそがサバイバルにおいては最も重要な教訓なのだ。
さしあたり、まだまだ行きたいところはあるし、飛行機にもたくさん乗るだろう。死なないように生きていきたい。
The Survivors Club:The Secrets and Science that could Save Your Life
by Ben Sherwood
原著:2009年
邦訳:2010年
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