タイ、パタヤ滞在中のこと。
部屋のテレビをぼーっと見ていると、1本の映画が始まった。
アメリカ人らしき親子4人が飛行機に乗っている。どうやらアジアの某国へ赴任していくようだ。
空港に到着。ホテルへチェックイン。
街の中の様子は典型的な東南アジア。時代設定も国名もはっきりしないが、モデルは明らかにカンボジアで、撮影地は確実にタイだ。一部タイの国旗が映っているし、文字もタイ語っぽい。
と、新聞を買いに行った父親が、突然、外国人襲撃事件を目撃する。
眼の前でアメリカ人が無慈悲に銃殺されている。
ホテルに戻ると、暴徒に襲撃されているではないか。
次々に外国人がターゲットにされる。
尋常ならざる事態である。
裏口から部屋に戻り、妻と子供を連れて屋上へ逃げる。
何が起きているのかさっぱりわからないが、とにかく逃げるしかない主人公。
見ているこっちもさっぱりわからない。
タイ語吹き替えのため、内容は一部理解できるものの、要領を得ない。
どうやらクーデターか革命が起こったようだけど、理由も背景もさっぱりわからない。
が、会話はわからなくとも、異常なまでの切迫感と緊張感の連続だ。
ピンチ、ピンチ、またピンチ。執拗に追いかけてくる暴徒たち。
絶体絶命かつ不条理な状況でも、逃げ続けるアメリカ人親子。
思わず目をそむけたくなるほど。
無事に隣国へ脱出することができるのか、最後まで息をつかせぬ展開。
怖かった。並のホラームービーより怖かった。
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映画『クーデター』
見終わってから、何の映画なのか調べてみた。
すると、邦題が『クーデター』という映画であることが判明。
2015年公開だったようだ。
原題は、『No Escape』で、こっちのほうがしっくりくるかも。ひたすら逃げる映画なんで。
やはり、撮影地はタイ。
本当かどうかは知らないが、外国人それも西洋人を皆殺しにするという内容が内容だけにタイでは上映禁止になったとか。ま、パタヤのケーブルテレビとはいえ、テレビで放送されているから別に問題ないと思うけど。
ちゃんと内容も確認してみたいと、Amazoプライムビデオで検索してみると、見事にヒット。
プライム会員になっており、会員特典として字幕版が無料で見られた。(吹替版は有料。なお、海外からはプライム会員特典視聴不可。)
日本帰国後にAmazonプライムビデオで字幕版をしっかりと再鑑賞。
さすがに初見時ほどの緊迫感はないけれど、やっぱり怖い。
ちゃんと内容も理解できた。
外国資本に水資源を蹂躙され搾取されていることへの怒りがクーデターの原因。
それを明かすのは、「イギリスのCIA」みたいな人。演じるのはピアーズ・ブロスナン。つまり、一昔前のジェイムズ・ボンド。
すごく皮肉がきいている。
最後の最後に実名の国が登場するが、それがベトナム。かつてアメリカが蹂躙したベトナムによってアメリカ人親子が救出されるという、これまた皮肉をかます。
ちなみに、オリジナル音声で視聴すると、現地人の話す言葉はタイ語だった。いや、すべてではないが、一部は完全にタイ語で、一部は聞き取り不可の言語。
演じた役者はタイ人だったようだ。
タイでクーデター
タイはクーデーター頻発国。
第二次世界大戦以降だけでも、10回以上のクーデターが起きている。
最新のクーデターは2014年7月。
その、2014年のクーデーター発生当日、わたしはタイ行きの飛行機に乗っていた。
タイに降り立つとクーデーターが起きていた。
まさに、映画「クーデーター」の主人公と同じ。
夜、パタヤに着いたところでクーデター発生の事実を知った。
眠らないはずの街が、戒厳令下で静まり返っていた。
実際は無血クーデターで何の危険もなかったが、あの夜の静かなパタヤは今でも忘れられない。
まさかパタヤで外国人排斥運動が起こるとは思えないけれど、一部タイ人が反感を抱いていてもおかしくない。
映画のシチュエーションを自分の身に置き換えてみると、恐怖が増す。
この映画のモデルとなったであろうカンボジアも20年ほど前に訪れている。1990年代末期のことだ。
ようやく内戦が終結したが、まだまだ政情不安。クーデターっぽいことも平気で起こっていた。
当時のカンボジア、プノンペンは、それはそれは暗黒都市の様相を呈していて、とてもスリリング。夜出歩くと、ほぼ間違いなく強盗に遭遇すると言われていた。また、武器が氾濫しており、ロケットランチャーですら手に入るような状態。
この状況でクーデターや内戦に巻き込まれたらと想像すると、実に恐ろしい。
まとめ
映画の内容は、ご都合主義的な部分がたくさんあるし、東南アジアへの見方もいかにも欧米的。別に差別も侮蔑もしているわけではないだろうけど、理解不能な異界を見ているような視点を感じる。ノンポリっぽい呑気で人のいいアメリカ人を主人公に据えているし、恐怖を盛り上げるために、わざとそういう描写にしているのだろうけど。
まあ、細かいことはいい。
自分の身に置き換えて物語を楽しむのは、他の映画や小説や漫画でも同様。
感情移入という点では、個人的にこの映画は満点近いスリリングさだった。
政治的な内容など考えず、ひたすらどきどきはらはら恐怖に打ち震えながら娯楽映画として楽しめばいい。
タイや東南アジア好きなら、一度は見ておきましょう。
Amazonプライムに入会すれば会員特典で無料で見られます。
Amazonビデオでレンタルも可能。吹き替え版でも199円から。
理不尽かつ不条理な状況で外国人がひたすら逃げる映画といえば、アラン・パーカーが監督、オリバー・ストーンが脚本を書いた『ミッドナイト・エクスプレス』を思い出す。トルコが舞台。
これまた怖い映画だった。脱獄して逃げる主人公を追いかける犬のシーンが今でもフラッシュバックするほど。
こちらも必見です。
脱走ものといえば、『パピヨン』も名作中の名作だが、あまりにもタイやアジアとは関係なくなる。
映画について語りだすとキリがないので、このへんで。
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