「PRIVATE DANCER」by Stephen Leather
裸の後ろ姿に黒い長髪。背中にまわした手にはカミソリを隠し持っている。
まさにタイのバーガールを象徴する表紙だ。
著者のスティーブン・レザーはスリラー系小説のベストセラー作家。日本で翻訳が数点出版されている。そんなレザーがバンコクのゴーゴーバーを舞台にして書き下ろしたのが、この「プライベート・ダンサー」だ。
簡単なあらすじ
ガイドブックの執筆のためにバンコクへ赴任してきたピートは、友人に連れられナナプラザのゴーゴーバーへ。そこで出会ったダンサー、ジョイに一目ぼれ。
長い黒髪、スレンダーな体、やわらかな茶色の瞳。
ピートはジョイにぞっこん。一度ペイバーしてからは、ジョイにいれこむ日々。
そんなピートをうまくあしらい、金づるとするジョイ。
いつしか二人の関係はこじれていき、ジョイが自殺をはかるのだが・・・
まあ、ありふれた話だ。
が、抜群におもしろい。
ベストセラー作家だけあって、文章はとても読みやすい。
構成もみごと。
登場人物たちがそれぞれ一人称で語っていくスタイル。ピートとジョイの他、ナナでバーを経営する男、タイで毎晩夜遊びをするファランなどが、代わる代わる自分の思いや毒舌を披露する。
これがあまりにも正鵠を射ているものが多くて、タイリピーターなら、そうそうと膝を打つこと必至だ。
それとともに、同じ場面をピートとジョイがそれぞれの視点から描写するのだが、その内実の違いに思わず愕然とするだろう。
ジョイとピートの合同誕生日パーティのシーンなんて、もう読んでいられないくらい。
ファランが可哀想に思えてくる。
要所要所で挿入される、タイ文化を研究する大学教授の冷静な論文調の文章も興味深い。
ぐいぐいと読ませる力量はさすがベストセラー作家。
なぜ、これが邦訳されないのか不思議なくらい。
あまりにもおもしろいので、思わず自分で翻訳をはじめてしまったほどだ。
さすがにしんどくなり、100ページほどで断念したけど。
権利関係さえクリアできれば、きちんと全訳した上で公開したいのだが、たぶん無理。
しょうがないので、英語で読みましょう。
あっち方面のスラングがたくさん出てくるので、英語の勉強にもちょうどよい。
刊行されたのが 2005年。
今でもタイ国内の書店では平積みされるほどの人気ぶり。
しかしまあ、この小説を読めば読むほどゴーゴーダンサーに入れ込むのを躊躇してしまうようになるだろうけど。
それでも、「いや、彼女だけは違うんだ」と思わせてしまうところが、タイの女性のすごさでもあり、タイとタイ女性にどっぷりとハマってしまう男たちが後を絶たないのも無理はない(わたしを含めて)。
タイで夜遊びをする人は必読の小説。
ノンフィクション、小説を問わず、この手の洋書を数十冊読んできたが、今のところ、これ以上おもしろい本には出会っていない。
ちなみに、パタヤのウォーキングストリートに「プライベート・ダンサー」というゴーゴーバーが存在する。
看板のデザインも本書と同じものを使用。と思ったら、女の手にはカミソリではなく、バラの花。しゃれが効いている。
はたして、著者のスティーブン・レザーと関係があるのかないのか。たぶん無関係だろうなあ。
(追記。ウォーキングストリートのプライベートダンサーゴーゴーは、閉店してしまいました。)
ペイパーバック版とキンドル版が日本でも入手可能。