最近、パタヤ沈没生活で考えることが多い。
いや、日常生活はまったく問題ない。健康にも支障はない。
タイ女性との付き合いでとにかく疲弊していた。
あきらめて日本に帰ろうかと思ったほどだった。
そのほうが金銭的にも精神的にも、よほど楽になれるはずだと。
これほど悩み、ストレスを感じるパタヤ滞在は初めてだ。
さて、日付的には昨日のことだが、実質一昨日の夜のこと。
ワールドカップロシア大会決勝トーナメント1回戦、日本対ベルギー戦。
例によってパタヤのバービアでテレビ観戦した。
タイ時間で深夜1時キックオフ。この時間でもバービアには客がちらほらいるが、日本人はほぼ見かけない。
後半戦ともなると、ついに客はわたし一人になった。
そして、日本が2連続ゴール。
これには驚き、そして歓喜した。
バービア嬢たちは、わたしの喜びぶりにむしろ驚いていた。
ママさんからはやんわりとリンガベルを煽ってきたが、これはスルー。
バービア嬢は5人ほどだし、日本が勝ったらリンガベルしてもいいかとケチなわたしでも本気で検討していた。
勝負はまだわからない。
でもさすがに2点リードは安泰だと思っていた。
が、まさかの同点に。
延長戦の雰囲気が濃厚に。
ホンダさんのフリーキックも決まらなかった。
バービアもすでに閉店準備を進めている。冷蔵庫に鍵をかけ、椅子を片付ける。ネオンサインの電源も落とした。
最後の客であるわたしの退店を待っている状態だ。
このまま延長戦にもつれこんだら、どこか朝までやっているバービアかスポーツバーに河岸を変えようと考えていた。
そして、ロスタイム残りわずか。
まさかの逆転ゴールをくらう。
その瞬間、バービアが凍りつく。
が、2軒ほど隣のバービアではファランが雄叫びを上げながら、飛び跳ねていた。
ベルギー人らしい。
そりゃあ、嬉しいだろう。もう最高の気分だろう。
わたしは、すぐさまチェックビン。ビール代を払って、その場を逃げるようにして店を出る。
後ろではバービアが閉店。
そして、近くのバービアからはベルギー人がかき鳴らすリンガベルの音が聞こえてきた。
落胆したまま部屋に戻り、シャワーで悔し涙を洗い流す。
逆転負けはショックだったが、実のところ、そこまで落ち込むほどではない。
やれるだけのことはやったように思えた。
でもやはりあの状況で勝ちきれなかったのは悔しい。
最近ずっと懇意にしているタイ女性がいる。
その彼女に、悔し涙スタンプと日本敗北のメッセージを送信。
ついで、グッドナイトスタンプも送る。
が、眠れない。本当に惜しい戦いだった。
あとちょっとでベスト8。悔しい。眠れない。
うつらうつらしていると彼女から電話がかかってきた。
仕事終わりに友人たちと食事をしていたようで、今からわたしの部屋に泊まりに来ると言う。
一気にテンションが上がる。
ほどなくしてアパートに到着したと連絡があり、玄関までお出迎え。
ほろ酔い気分の彼女を部屋に招き入れ、サッカーの話を少々。
まったくサッカーには興味がないらしいが、残念だったねと軽くなぐさめてくれた。
彼女と夜のベッドをともにするには2週間ぶりくらい。
ここでは語りきれないほどいろいろな事情があって、とにかく燃えた。お互い燃えた。激しい攻防となった。
右へ流したと思えば、一気に左へ展開。
上からヘディング攻撃をしかけたつもりが、いつのまにか上下逆さまとなり、激しく自陣を蹂躙されてしまう。
めまぐるしい攻守交代。
体力が残り少なくなってきた。
最後は真正面から気合で相手ゴールにボールをぶちこんだ。
夜の大逆転ゴール。
燃え尽きた。
最近はめっきり衰えてきてそろそろ限界説が囁かれ始めているが、パタヤ深夜のエースストライカーは健在だったようだ。ま、そんな称号を自ら名乗るのは恥と尊大さの極致だが、実際よくやった。うん、よかった。本当によかった。彼女がいい子で本当にうれしい。
でもハットトリックは無理。一球入魂。そこは勘弁してほしい。
心地よい疲労感と充足感とほのかに紅潮したままの彼女の体を抱きながら静かに眠りについた、そんな夜。
これだからパタヤの夜はやめられない。
日本代表は晴れ晴れと胸を張って凱旋帰国してほしい。
わたしは、股間を膨らませながらもう少しパタヤでがんばってみようと思う。
パタヤの夜にゲームセットはない。
果てしなき延長戦が続くのだ。
ゴールを決めても、ゴールはまだ見えない。終了のホイッスルが鳴ることはない。それがパタヤの夜だ。