パタヤ千夜一夜

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『だから、居場所が欲しかった。』バンコクコルセン物語は残酷か否か?

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日本一時帰国中はひたすら読書。
日本国内最大の利点は、日本のおいしい食事が安く食べられることと、日本語の本が何でも気軽に読めることだ。
とにかく片っ端から読む。
紙の本が好きだ。Kindleもいいけれど、今ひとつ頭に入ってこない。慣れの問題かもしれないが、どうにも電子本は読んだ実感が湧かない。
古風な活字好きとしてはひたすら紙の本をめくるのみ。
積読本を消費しつつ、タイ滞在中に発行された新刊も読む。

だから、居場所が欲しかった。

だから、居場所が欲しかった。 (1)

バンコクのコールセンターで働く日本人の人生模様を長期に渡って取材した好著。
2017年9月刊行。
わたしがフィリピンに旅立った頃に出版され、帰国後に購入して一気に読了した。
著者は、フィリピンの困窮日本人を取材した『日本を捨てた男たち』で開高健賞を受賞した水谷竹秀。

裏表紙
だから、居場所が欲しかった。 (3)

目次
だから、居場所が欲しかった。 (2)

コールセンター。略してコルセン。
なんのコネもカネも資格もないがタイへ移住したいと考えている人なら、一度ならずとも耳にしたことがある単語のはずだ。
海外就職なのに、外国語は一切不要。すべて日本語で働くことができる。さらに年齢も職歴も学歴もほとんど問われない。
極端な話、日本人ならほとんどの人が就職可能。
しかもタイでのワーキングパーミットがきちんと支給されて、堂々とタイに住むことができる。
問題は、給料が安いこと。
おおむね3万バーツ前後。もっと安いこともあれば、昇給もある
通常、タイで日本人が働く場合の最低賃金は5万バーツ。これ以下だと就業許可が降りない。
が、コールセンターは独自の認可を受けており、3万バーツでも雇用可能となっている。
現在のレートで約10万円。
一般タイ人の平均所得よりは多いが、日本基準で考えるとかなり安い。
タイで働く日本企業駐在員からは見下されているという。

そんな状況でも、コルセン勤めを希望する人は多い。なぜ、彼らは、そんな環境で働こうとするのか。
否、日本ではもう働けないのではないのか。日本には居場所がないのではないか。
いじめ、非正規雇用労働、ノルマに追われて自殺を考えた会社員、性的マイノリティー、バンコクのゴーゴーボーイにはまった女性たち…

そんなコルセン勤務の人たちを丁寧に取材してある。
日本の労働環境や世間体といったものに息苦しさを感じ、タイのゆるやかでいいかげんな空気に開放感を味わったことがある人なら、ここに登場する人たちに共感できる部分は少なくないはずだ。

日本で死にたくなるほどのプレッシャーとストレスにさらされ、本当に死んでもしまう人もいる。以前より少なくなってきているが、日本の自殺者の数を調べたら、慄然とするだろう。

タイへ来たら、そんなストレスとはおさらば。

カネがない? 死んだら元も子もない。
将来? 死んだら明日もない。

でも最低限の日々の糧は必要。そこでコルセン勤務となる。
なにがおかしい?
なんの論理破綻もないし、動物としての生存本能に根ざした行為だ。
まずは生き残ること。話はそれからだ。
「がんばれ、みんな耐えている、日本人なら働くのが当たり前、働け、将来のためだ、おまえならできる」とケツを叩かれ、無残に死んでいった日本人のなんと多きことか。

コルセン勤務の友人

ちなみに、わたしにも、バンコクコールセンターで働いていた友人がいる。
アソークにオフィスを構えるあの会社である。誰もが知っている業界最大手。
わたしが会いに行った時はすでにそのコルセンを辞めて、現地企業に転職していた。

バンコクアソーク交差点

友人の仕事終わりに待ち合わせしてアソーク近辺を歩くと、次々に知り合いに遭遇するのがおもしろかった。
BTSの陸橋で、陸橋下の屋台で、ばったり。
みんな、現コルセン勤務ないし元コルセン勤務の人たちだ。
日本以上に狭い社会かもしれない。

男性がタイ移住というとまっさきに女遊びという目的が浮かぶ。たしかにその一面はある。いや、ゼッタイある。
が、この友人は、夜遊び目的でバンコクへ移住したわけではない。
ある時、わたしがテーメーカフェに行こうぜと誘った。
友人はこれが初テーメー。
バンコクに数年住んで、毎日のようにアソークに出勤しているのに、テーメーカフェに入ったことがないという。
「へえ、ここがテーメーか」とびっくりしていた。
で、テーメーカフェ内でも、知り合いのコルセン男性に遭遇するのであった。

人にはそれぞれ事情がある。

友人は、日本で普通に会社勤めしていて、別に日本の居場所がないようなタイプではなかったと思う。
しらないうちにタイへ移住して、コルセン勤務を始めていた。
人伝に聞いて、ちょっとびっくりした。
詳しい事情は聞いていない。
単にタイでのんびり過ごしたいと思っているだけかもしれない。コルセン時代の安月給でも楽しくのほほんと暮らしているようだった。
もちろん、本心はわからない。
表面上は明るくつくろっているが、心の奥底には深い闇を抱えているかもしれない。

タイと居場所探し

いやまあ、正直なところ、日本の労働環境がどうのとか心の闇とかは、どうでもよかったりする。
タイは楽しい。一面的に論じるのは拙速の極みだとわかりきった上で、あえて断言する。
タイは楽しい。だからタイへ行くのだ。理屈じゃないんだ。
タイへ行けば、悩みも疲れもすべて吹っ飛ぶ。
住むとなるとそれはそれで別の悩みやストレスも生じてくるが、これまたあえて断言する。
それでもやっぱりタイは楽しいのだ。

居場所探しとか自分探しという言葉が嫌いだ。
「なぜ旅をしているのか?」と問われて、「自分探し」と答えるような人はもっと嫌いだ。いや、きらきらした瞳でそんなことを口にする旅人には実際に出会ったことはないけれど、たぶん、いるんでしょう。知らんけど。
自分は今ここにしかいない。
旅が好きだから旅をする。ただ、それだけでいい。

居場所など考えない。今、たまたまいる場所が、自分の居場所に過ぎない。明日には違う場所にいるかもしれないし、しばらくとどまるかもしれない。そんなことは明日の風に聞いてくれとうそぶくのが旅人ってものだと思うし、人生なんて嵐の中で舞う砂粒、大河の流れに転がる小石みたいなものだと考えている。

Bangkok Boy

さて、本書に登場する女性がおもしろい。
バンコクにあるボーイズタウン、ソイトワイライトにはまった女性だ。ゴーゴーボーイと結婚までしたという。
著者は、ソイトワイライトにかなり興味を持ったようで、追跡調査している。
とりわけ、『Bangkok Boy』という本を書いたタイ人の現況を追いかけるくだりは興味深い。

Bangkok Boy

わたしもこの『Bangkok Boy』を読んでおり、思わずにやにやしてしまった。
読んだのは数年前。もちろん英語。翻訳は出ていない。
当時、石井光太のアジアストリートチルドレンものを集中して読んでいた時期で、表紙から察するにこの本もてっきりストリートチルドレンの話かと思って読み出した。
が、ソイトワイライトのゴーゴーボーイで働く話だった。
ゴーゴーボーイの内情が描かれていて、これはこれですごくおもしろかった。

『Bangkok Boy』の著者タイ人は、現在、ホテルの警備員をしているそうだ。実際のライターであるファランと揉めて、あの本のことは思い出したくないとか。
このくだりは、『だから居場所が欲しかった。』の本筋とはほとんど関係ないと思うのだが、取材熱心さには感心させられる。
というか、わたし以外にも、こんな『Bangkok Boy』なんて本を読んでいる日本人がいるのが嬉しくなった。(ま、他にもたくさんいるだろうけど。)

関連図書

著者・水谷竹秀はフィリピン在住。
マニラの事情に詳しい。

デビュー作の『日本を捨てた男たち』ももちろん読んでいる。興味深かったし、おもしろく読めた。

タイとフィリピンの文化比較や、そこに住まう日本人の違いや共通点などを掘り下げていってくれると、タイ好きとしてはさらにうれしい。
次回作にも期待。

バンコクに居場所を求める話なら、やはり下川裕治の一連の著作は欠かせない。というか、この手のネタのオリジナルは間違いなく下川裕治。

新書2冊はタイ好きなら必読書。さくっと読めるし、それでいて、考えさせられる内容。

また、バンコク外こもり系の本も面白い。
こちらは単に楽しい読みもの系で、シリアス感はまったくないけれど。

有名な話だが、『外こもりのススメ』の著者は、同胞によって命を奪われた。狭い日本人社会、あまり自分のこと(とりわけ経済状況)を晒すと、あっという間に狙われる。日本人にとって一番危ないのは、タイにおいても日本人。タイ移住を考えている人は現地治安はもちろんのこと、日本人にはさらに気をつけましょう。これだけはシリアス。

まとめ

楽しく生きようよ。
うん、タイは楽しい。
タイでなら生きていける人は多いに違いない。それは確かだ。
タイに居場所があると感じるなら、それでいい。
日本が生きづらいなら、さっさと見切りをつければいいだけ。
別に深く考えなくてもいい。
楽しければ何でもいい。
バンコクのコルセンでもどこでも、生きてりゃ何とかなるよ。天国か地獄かはその人次第。

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