パイナイとパイナイマー
タイにある程度滞在していると、顔見知りが増えてくる。
毎日のように出かけていたり遊んでいたりすると、バーの店員や呼び込みに顔を覚えられる。
ホテルやアパートのフロントにも顔を覚えられる。
で、挨拶がわりなのか、タイ人は必ずこう聞いてくる。
出かけるたびに、「パイナイ?」(どこ行くの?)
戻ってくるたびに、「パイナイマー?」(どこ行ってきたの?)
顔を見るなり必ずといってもいいほど聞かれるのだ。
まあ、大概は「ギンカーオ」と答える。
実際、ご飯を食べに行くことが多いからだし、説明が簡単だからだ。
が、常にご飯を食べているわけじゃない。
買い物に出かけることもあれば、銀行に行くこともある。
夜遊びに出かけていても、同じこと。
バーの呼び込みに止められる。
「パイナイ?」
一度目は、「ギンカーオ」と答えたら納得してくれる。
でも、二度目は何と言うのだ。
「パイティアオ」(遊びに行く)
とでも答えようものなら、
「ここで遊んでいけ」みたいなことを言われて、腕を引っ張られるのがオチだ。
昼も夜もいちいち面倒だなあと思っていたら、一冊の本に出会った。
この本である。
下川裕治「タイ語の本音 (双葉文庫)」。
旅行エッセイ界のゴッドファーザー的存在である下川先生は、かつてバンコクのローカルなエリアにあるタイ人の家に居候しながらタイ語を学んでいたという。
出かけた帰り、近所の人に「パイナイマー?」と聞かれて、いつもまじめに答えようとして苦労していた。
でも、たまたま同行していたタイ人の答えを聞いて愕然とするのだ。
そのタイ人は一言「ミートゥラ」とだけ答えた。
トゥラは「用事」という意味。
ミーは、ご存知のとおり「ある」という意味だ。
つまり、「用事がある」。
それだけでいいのか!
眼から鱗の下川先生。
わたしの目からもボロボロと鱗が落ちた。
さっそく実践してみる
バービアの知り合いでも、ゴーゴーの呼び込みでも、ホテルのフロントでも、どこでも誰でも、「パイナイ?」と聞かれたら、こう答えるのだ。
「ミートゥラ」
パイナイと聞かれたら、どこへ行くのでも、「ミートゥラ」。
パイナイマーと聞かれたら、どこかへ行ってきた帰り道でも、「ミートゥラ」。
なんと、まあ、これですべてオッケーじゃないか。
タイ人からのつっこみは一切無し。それで納得してくれる。
「おっほぉ」
みたいな軽い感嘆詞が口から出る程度だ。
日本語なら「ちょっと野暮用で」って感じかな。
でも、野暮用というと、何か後ろめたい、人に言いにくい理由みたいなイメージ。
人によっては、「野暮用ってなんやねん」ってさらに突っ込まれそうだ。
でも、タイ人はそんな野暮な質問返しはしない。
「ミートゥラ」と聞いた時点で、それ以上の質問はとんでこない。
いやあ、これは便利だ。
使いまくってる。
ありがとう、下川先生。
「ミートゥラ」と「ギンカーオ」を交互に使っていけば、もう「パイナイ?」も怖くない。
ちなみに、用事を足すために出かけることを「パイトゥラ」と言う。
タイ語って単純な作り方だなあ。
マイアオとミートゥラの二本立てで対処せよ
物売りを撃退するのに便利なのは、「マイアオ」。
「いりません」という意味だ。
これくらいなら、タイ初心者でも、ほとんどの人が知っているでしょう。
まずは覚えておくべきタイ語の第一歩的なフレーズ。
ゴーゴーバーの呼び込みにも「マイアオ」で対処はできる。
でも、あまりきつく「マオアオ」と言って拒否してしまうと、ちょっと波風が立ちそうだ。
特に知り合いの呼び込みにつかまると、いろいろと厄介だ。
そんな時は、少し急いでいるフリをして、「ミートゥラ」と言ってみよう。
意外とあっさり引き下がってくれるものだ。
せいぜい「カムバックna」と言われる程度かな。
まあ、ウォーキングストリートあたりの呼び込みは、もうちょっとしつこく食らいついてきそうな気もするけど。
だいたい、ウォーキングストリートに遊びに行ってる時点で、用事が何かなんか決まってるじゃないか。
察してくれよ。
下川裕治「タイ語の本音」と「タイ語でタイ化」
「タイ語の本音」は、「タイ語でタイ化」の新版。時代の変化にあわせて、内容も一部変えてある。
新版の「タイ語の本音」だけで充分だろう。
熱心な下川ファンならどちらもゲットだ。
わたしは、もちろん、両方持ってまっせ。
タイ人の家に居候しながらタイ語を学んだという下川先生。
そんな下川先生のエッセイを読めば、堅苦しいタイ語学習書や、イラストばかりの軟弱な指差し会話帳よりも、はるかに実践的なフレーズが身につくはずだ。
「ミートゥラ」なんて他のタイ語本のどこにも載ってないよ。(いや、探せば載ってるのだろうけど、目に止まらない)
わたしは、この本に載っているフレーズで使えそうなものは全部メモ帳に書き写して、覚えるようにした。
「ユーチューイチューイ」(何も考えずに、ぼーっとする)とかね。
タイ人に電話番号を教えてもらうなら、「コーブーノイ」(番号を教えて下さい)と言う。
これは他の本で覚えた。
でも、番号を表す「ブー」が、英語のnumberから来ていると初めて知ったのはこの本。
まあでも、このブーの発音がかなり難しいので、なかなか通じない。で、単純にナンバーと言ってしまうけど。
他にも役立ちフレーズやウンチクが多数。
さらに、タイやタイ人に関する考察もかなり参考になる。
役に立ちますよ、ホントに。
ところで、バンコク滞在歴の長い下川先生。
あまり大っぴらに夜遊びについては書かれていない。
が、ところどころ、ちょっとした夜遊び事情についての記述はある。
きっと、本には書いてないだけで、相当遊んでるとみた。
いや、違ってたらごめんなさい。
でも、男だもの、行くよね、普通。
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